キズ絆 - Scene3-
まだ舞台冒頭をご覧になられていない方は1日目 、2日目こちらから読んでみてください🙂
-----明転
薄暗い事務所のソファに寝そべっている仁
テーブルには吸い殻の溜まった灰皿
アンニュイな雰囲気でため息をつき何か考え事をしているような仁はテーブルに置いてある煙草とライターに手を伸ばし包みをのぞく。吸い切って空だった煙草の包みをくしゃっと握り潰し、ため息を吐きそれをテーブルに戻す。 ( 煙草はセブンスター ソフト )
そこに里美がやってくる。彼女は仁の様子を伺うように一度入り口で立ち止まる。軽く前髪を整え、自分が来た事を伝えるように壁をコンコンと叩き事務所の中へと入る。それに気付き起き上がると仁はソファに座り直す。
「今日はひとり?」
「あぁ、かえでなら、たけちゃんと一緒に買い物…」
「あの2人結構お似合いなんじゃなーい?」
「何言ってんだよ!あんな包茎オーバーオール野郎絶対にダメだって」
「え、そうなの🤭?」と気の毒そうなリアクションの里美
「どこにくいついてんだよ」と仁につっこまれ、あっ😅って顔の里美
「もう、よくこれでどこに何があるか分かるわね〜」と雑多なデスクに向かい書類などを少し整える里美
「ねぇ、あの2人どうするの?なにか考えでもあるの?別れたい女と別れたくない男。ねぇ、仁は別れさせるの?それともくっつけるの?難しいわよね、本当は2人とも想いあってるのに」
そこに買い物行っていた武とかえでが帰ってくるが、2人の雰囲気を見て気を利かせたかえでは、2人に気づかれないようにたけしを連れて事務所の外に出る。
「その辺に良くあるような話だろ。それにこれは仕事だから。」
「ねぇ、私たちはどうだったのかしらね?」そう言いながら里美も仁の隣に座る。
「わたしがあの時、子供産んでたら3人で今でも一緒に居たのかな?」
「やめろよもう5年も前の話だろ」
「そうね、あの頃は仁も弁護士目指して頑張ってて生き生きしていてかっこよかったな〜。私も若くてピッチピチで肌だってツヤツヤしてた」
「里美は今でも変わってないよ」隣に座る里美を少し肘でつつくような仕草をする仁
「そう?ありがとう」仁にそう言われて凄く嬉しそうな里美
「その頃だったわよね、仁が弁護士になるの諦めてこの探偵事務所を始めたの。でも私が流産しちゃったんだから、夢諦めずに弁護士目指せばよかったじゃない?」
「俺の頭じゃ弁護士なんて難しかったんだよ!それにそんなになりたいってわけでもなかったし」
やけに明るく話す里美のテンションとは反対に「それに子供は里美の夢だったろ」と落ち着いた声で言う
「しょうがないじゃなーい!私が流産しちゃったんだから!」と変わらず明るく答えた里美はハッピーターンに手を伸ばす。仁も食べる?と言うように一つ差し出そうとする里美を交わすように仁は素っ気ない態度で立ち上がりテーブルの上の灰皿と空の煙草を待ちキッチンの方へと向かう。それを不安げな顔で見る里美
仁は立ち止まると
「…堕ろしたんだろ」
そう静かに言い捨てキッチンへと消えた。
その言葉を聞き、部屋にひとり残された里美はハッピーターンを手にしたまま体を震わせとても動揺している。
♪〜 Without Those Songs / The script
空になった灰皿を持った仁がキッチンから戻ってくる。自分が戻ったことを里美に気づかせるかのように少し音を立て、灰皿をデスクの隅に置くと、仁はデスクの椅子に腰をおろした。
「なんだ…仁、知ってたんだ…」と里美が口を開く。
「何ずっと黙ってんのよ。だったら言ってくれれば良かったじゃない。そっか私が勝手にそんな事したから、だから仁、怒ってたんだ」
「怒ってないよ」と仁は落ち着いた声で答える。
「うそよ!」里美は声は荒げテーブルを叩く。
「私が流産したって言った時、仁はやけに冷静で。それからはいつも上の空で素っ気なくなるし、家にだって全然帰って来なくなって、私…何がなんだか全然分からなかったんだから!私は仁に夢、諦めて欲しくなくて、悩んで悩んで…」
「分かってるよ」また仁は落ち着いた声で言う。
「私が別れようって言った時も仁はそっかって。」
「俺のせいで、あんなに欲しがってた子供諦めるなんて」
「子供は…子供はまたいつだってできたじゃない」
「心にも無い事言うなよ!!」仁は声を荒げ立ち上がる
「お前が一番分かってんだろ?その時里美のお腹にいた子は後にも先にもその子だけだって。そのうえ俺と居たら、里美はそのことずっと俺に黙って一人で抱え込まなきゃいけないだろ。」
「私はそれでも良かった。それでもいいと思ったからそうする事でずっと仁と居られるなら私が一人で全部抱え込もうって。そう決めたのに。」
「お兄ちゃんずるいよ!!!」と、かえで。それを引き止めようとした武も事務所に入ってくる。「聞くつもりは無かったんだけど…」と気まずそうに武が言う。
「お兄ちゃんは自分が辛いから逃げたんでしょ?!綺麗事ばっかり言わないでよ!!里美さんの気持ち知ってたくせにお兄ちゃんは里美さんから逃げただけじゃない!!男のお兄ちゃんに好きな人の子供を堕す女性の気持ちなんて分かる訳ないでしょ!!こんなの…里美さんがかわいそう…」
里「かえでちゃん、仁だって辛いの」
か「だったら、2人で治していけばいいじゃない」
仁「世の中には治らないキズだってあるんだよ。普段は絆創膏でも貼って忘れたフリしてても、何かの拍子にそれが剥がれて、全然治ってないキズを見る度に思い出すんだ。目の前にそのキズをつけた本人が居たら尚更きついだろ。」
か「そんなの屁理屈だよ」
さ「私は仁の絆創膏がはがれたら、何十回でも何百回でも貼り直してあげられる!…って思ってたんだけどな」
「もういいよ!里美さんこんな童顔野郎の事なんかほっとけば!里美さんにはもっといい人がいるから!だからもう行こう!私の友達紹介してあげるから!」と里美の手を引き帰ろうとするかえで
里美は「ごめんねたけるくん!」と武に伝え事務所を後にする。
仁と静まり返った事務所に取り残され武は「……たけしっす」と小さく呟く。
「俺、恋愛とかそういうのはよく分からないけどさ…みんな相手のことすげー思ってるのは分かるよ…。」と仁に声をかける武
そこに花岡が『おい仁ー!お前里美さんに何した?』と凄い勢いで入ってくる。
仁「いきなり呼び捨てかよ?」
「おい!里美さん今、目真っ赤だったぞ!何があったんだよ!」
「関係ないだろ!今日は何の用ですか?」
「あっ花岡光一です」と仁に名刺を差し出す
「知ってるよ」と手を払う
「おい、仁!仁!ちゃんと聞いてんのか?」
「うるさいな。あんた、近いんだって!」
「おいお前!里美さんを悲しませるような事したら許さないからな!」
「は?」
「俺は里美さんに会った時にこの人だ!と思って一生この人を守ると決意したんだ。お前にはその覚悟があるのか?」
問いかけに黙り込む仁。花岡は街角で里美に会って運命を感じた→この運命を逃しては行けないと思ったと身振り手振り一方的に話し出す。
「俺が里美さんに出会った時、これしかないと思い、ハンカチを渡そうと追いかけたんだ」
語る花岡を仁と武は黙って見守った。
「『あのぉ、ハンケチーフ落としましたよぉ』一生懸命話しかけたが、彼女は全く気づかなかった。そこで俺は懸命に走った。走って走って走って気がついたら里美さんをすっかり通り過ぎ、彼女は遠く米粒くらいのサイズになっていた」
悔しそうにする花岡の話を、仁は指で米粒を摘むマネをしながら聞いた。
「それから何度も里美さんとすれ違ったが全く気づかれなかった俺は、この作戦しかない!やつを決行することにした」
一応気がかりな様子を見せる仁と武に、花岡は重々しく告げた。
「靴作戦だ」
「「は?」」
戸惑う仁と武に構わず花岡は靴を片方脱ぎ、床に置いたまま話し続ける。
「俺は里美さんに気付かれるように完璧なタイミングで靴を脱いだ!だが彼女はまっっったく気づかなかった」
武「気づかなかったのかよ」
仁「てか、いい加減出逢えよ」
花「俺は茫然とした」
口を開け、茫然とした過去の自分を再現する花岡を、仁と武はしばらく眺めていた。が、微動だにしない花岡に呆れた仁はため息をつき
「たけちゃん、靴と一緒に帰ってもらって!」と言う。
武が床に置き去りにされた靴を拾い、花岡をどかそうとした時、微動だにしていなかった花岡はまた急に話し出した。
「だがしかし!!俺は諦めなかった!雨の日も風の日も俺は必死で里美さんのことを調べた」
血の滲むような努力で里美の家を突き止め、里美行きつけの喫茶店を突き止めた。その純喫茶ブラジルで、何度も顔を合わせるうちに里美と挨拶を交わすような間柄になったと2人に話す。
「これが俺の愛し方だ」と仁に向かって言う
武「それストーカーですよ」
花「一体お前は何を怖がってる?俺は、里美さんの全てを受け入れる覚悟ができてる。婚約解消したくせにずるずる気持ち引きずっていつまでも煮え切らないお前とは違うんだよ」
仁と里美の事に口出しする花岡に武が「何も知らないくせになんなんだよ!」と声を荒げる。
「そうだなぁ。」珍しく花岡の言葉に反論せずにそう呟く仁。
その様子に拍子抜けする花岡は
「藍は藍より出でて、藍よりも青しだ。」
「理由は知らん。」と仁に言葉をかける。
「…言いたいことはそれだけだ」と言い少し気まずそうな様子で事務所を後にする花岡
帰ったかと思ったが花岡は入り口から顔を覗かせ「じゃ、また明日来るからな〜🙋🏻♂️」とそれまでの空気を変えるように言った。
「何しに来んだよ!」とつっこむ武
静かになった事務所。仁が口を開く
「たけちゃん……たけちゃんかえでのこと好きだろ?」
え、この流れありがとうじゃないの?!と言いたげに振り返り図星をつかれ動揺する武
「えっ、そりゃ好きか嫌いかで言ったら好きだけど」
「ぜっっったいダメだからね😊」と笑顔で言う仁
「えっ今?!」「うん」と可愛く答える仁
♪〜 For The Beats / RIDDIMATES
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こちらは個人的な備忘録であり、キズ絆関連の一切の権利は劇団ノーティーボーイズ様に帰属致します。
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